第1回 秋を知らせる鮭のお話

第1回 秋を知らせる鮭のお話

秋の訪れを伝えてくれる鮭

冷凍・冷蔵技術や物流が発達したおかげで、すっかり食材の季節感が乏しくなってしまった昨今。中でも旬を迎える鮭は、年中どこのスーパーでも目にするので、季節感もなにもないという人もいるかもしれない。けれど私にとって鮭は、秋の訪れを毎年伝えに来てくれる大切な存在。鮭が上ってこなければ冬が始まらない、とさえ思えるほどだ。

産まれた川をひたすら上る

川で産まれ、海で成長する鮭は、3年間の長い旅の末、産まれた川の河口に帰ってくると、今まで着ていた蒼い銀色の衣を脱ぎ、きれいなブナ色の衣に着替えて川を上り始める。

堰があっても、どんなに流れが急でも、鮭はひたすら上流を目指し進む。あまりに一生懸命な彼らを見ていると、釣りをするつもりで手には一応竿を持っているが、イタズラに邪魔などとてもできない。

産卵を終え、力尽きる

もうこれ以上は上れない、という所まで来ると、鮭たちは産卵の準備を始める。長い旅を一緒にしてきた同郷の仲間同士で何組ものペアが誕生し、川のあちこちで産卵が始まる。釣りに来たはずなのに、できるだけ邪魔をしないように、遠目からそっと見守る。

産卵シーズンも終わりになると、河原には力つき弱った鮭達の姿が見られる。その一部は鳥や熊に捕まり、一部は川岸に打ち上げられて朽ち果てる。

土に還り、森を育てる

熊は、捕まえた鮭を森へ運び込み、食す。冬ごもりに向けてたくさん脂肪を蓄えなければならない彼らは、脂が多く一番美味しい頭とお腹だけ食べ、あとは残して次の獲物を獲りに行く。残った身は微生物に分解され、養分として土に還っていく。

海で成長した鮭の体には、森の植物達には嬉しい養分・海由来の窒素が含まれている。土に還った鮭は、森の成長を促す役割を果たす。実際、鮭のいる川の近くの森は、他の森より樹木の成長が早いといわれている。

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そして、次のいのちへ

豊かな河畔の森は、産まれてくる稚魚達に適した水温を保ち、身を隠す格好の物陰を提供し、餌となる昆虫を育む。翌年、元気に育った子ども達は両親のたどった厳しい海の旅へと向かい、3年後の秋、故郷の川へと帰ってくることだろう。

今年も鮭が上ってきたことに感謝しながら、おいしくいただきますか。その適度に脂の乗った秋のご馳走は、森の植物や動物にも愛される美味。鮭の帰ってくる国に生まれて本当に良かったと心から思える瞬間。森と鮭に想い馳せながら、今年の秋鮭、ぜひご賞味あれ。

文:中村遂彦(なかむらゆきひこ)

オレゴン州立大学農業資源経済学部卒業後、世界を放浪。アラビア諸国やアジアの密林、島々など地球の穴場を回り尽くし、人並み外れた”生きる力”を誇る。さらに農耕牧畜能力、食品加工知識も高い「食のオールラウンダー」。

“食べ物の命”への感謝が最高の調味料であり、その感謝が食を文化にすると確信している。自然の中に在るものをいただき生きること、生きる人をこよなく愛す。

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